子どもの筋生検の結果を基に、ネマリンミオパチーの筋病理について優しくわかりやすく解説します^^
赤ちゃんの出生時の状況や、普段の生活の様子からミオパチーが疑われる時、実際に筋肉の組織を採取して詳しく調べる「筋生検」で確定診断を行うことがあります。
なじみのあるX線検査や血液検査とは違って、筋生検はあまり一般的な検査とは言えず、検査自体も麻酔やメスを使った侵襲を伴うため、「わざわざ入院してまで受けた方がいいの?」と迷われる方もいるのではないかなと思います。
長男は運動発達の遅さや筋緊張の低さからミオパチーを疑い、保育園の年長のときに筋生検を行いました。小学校入学に向けて、どのような配慮が必要かを知っておきたいという思いもあったからです。
次男も同じく年長の時に筋生検を行いましたが、運動や筋肉のことだけでなく、長男が既にミオパチーと診断されていたこと、気管切開の閉鎖に向けた判断の材料にしたいという意図もあって踏み切りました。
検査の結果は二人とも「ネマリンミオパチー」という診断だったのですが、筋生検を受けたからこそ、正確な病名もわかり、筋病理の特徴からも病気と付き合っていくためのヒントを得ることができたと思います。
この記事では、長男の実際の筋生検結果の解説を通じて、ネマリンミオパチーがどのような病気であり、筋病理にどのような特徴があるのかを優しく説明します。
病気の特徴を知っていただくための一助となれば幸いです。
ネマリンミオパチーとは何か?
ネマリンミオパチーは、筋肉に異常を引き起こす遺伝性の病気です。主な症状としては、筋力の低下や運動能力の遅れなどが主な症状として現れます。
ネマリンミオパチーという病名は、筋肉の異常を引き起こす原因となる「ネマリン小体」と呼ばれる構造が筋線維内に蓄積することから名づけられました。
ネマリン小体とは、筋肉の線維の中に蓄積する糸くずのような紡錘状の構造物です。通常、健康な筋肉には見られないものですが、ネマリンミオパチーではネマリン小体が多数現れ、筋肉の正常な働きを妨げます。
親が子どもの病気の兆候に気づくのは、赤ちゃんの動きが他の子どもと少し違うという感覚や、運動発達の遅さを検診で指摘されて、ということが多いかもしれません。
ネマリンミオパチーは見た目だけで診断することは難しいため、確定診断には「筋生検」という検査が必要となります。
筋生検とは?
先天性ミオパチーの確定診断に行われる筋生検とは、筋肉の一部を採取して顕微鏡で筋肉の細胞や構造に異常があるかどうかを直接確認する検査です。
長男、次男ともに、上腕二頭筋の筋繊維を採取し、検査を行いました。
2人とも、二の腕の内側にうっすら数センチの切開跡が残っていますが、ほとんど目立ちません。子どもたちは全身麻酔で切開を行ったので、2泊3日の入院でした。
採取されたサンプルは、観察しやすいように特殊な染色法で染色されます。ネマリン小体は特定の染色法(mGT染色)によって浮き彫りにされるので、ネマリン小体の存在=ネマリンミオパチーであることが確定します。
筋生検の結果と解説
では、実際の筋生検の結果を見ながら、どのようなことが分かるのかを解説していきますね。息子たちは3種類の染色法で筋繊維の状態を調べています。
ネマリン小体の有無を調べる
mGT染色(Modified Gomori Trichrome 染色)は、筋肉の中の異常な構造物をはっきりと浮き上がらせる染色法です。ネマリンミオパチーの場合、筋線維内にネマリン小体という通常の細胞に見られない異常な棒状構造が見られますが、この染色法を用いると赤や紫に染色されます。
右の写真は長男のmGT染色の写真です。左は比べるために提示された正常な細胞の写真です。長男の筋細胞の中に紫色に染まったネマリン小体が多数みられるのが分かると思います。
検査の前は「先天性ミオパチー疑い」だったのが、この検査結果をもって、長男っは数ある先天性ミオパチーの中でも、「ネマリンミオパチー」であるということが確定しました。
細胞の構造と機能を調べる
左のピンク色の写真、HE染色はとても一般的な染色法で、細胞の構造を観察しやすくするために行われます。私もむかし、仕事でよく使っていました^^
ピンク色に染まっているのが筋肉の細胞質。青く染まっているのが筋細胞の核です。
この写真では細胞の壊死再生、繊維化などの様子は見られず、核の数も問題ありません。
よって、異常なし、という所見になります。
そして、右の写真はATP染色です。こちらは、筋肉の異常を機能的に評価するために使われます。白い部分がタイプ1の筋繊維、黒く染まっているのがタイプ2の筋繊維です。
タイプ1(遅筋繊維): 持続的な低強度の動作や長時間の活動に適しています。主に姿勢を維持する筋肉や、長時間使用される筋肉に多く存在します。
タイプ2(速筋繊維): 短時間で強い力を発揮し、瞬発力に優れていますが、疲れやすいです。タイプ2はさらに、速く動く「タイプ2A」と、さらに短時間でより強力な力を発揮する「タイプ2B」に分かれます。
ご覧の通り、長男の筋繊維は白い繊維、すなわちタイプ1(遅筋繊維)がかなり優勢になっています。
ネマリンミオパチーのような先天性筋疾患では、筋肉の発達や維持に関する遺伝子の変異が筋繊維のバランスに影響を与えます。ネマリンミオパチーで特に顕著なのが、タイプ1繊維が優勢で、タイプ2繊維が少なくなる現象と言われています。
筋生検の結果から読み解く機能的な影響
ATP染色の結果が示す通り、タイプ1が多く、タイプ2が少ないことは、筋肉の持久力や安定はある程度期待できるものの、力や瞬発力が著しく低下するというミオパチーの特徴的な症状に繋がります。
持久力の維持
タイプ1繊維が多いため、持久力や耐久性が求められる日常生活での基本的な動作(歩行、姿勢維持)にはある程度対応できると考えられます。しかし、筋肉の強度自体は低下しているため、簡単な動作でもすぐに疲れてしまうことが多いです。
瞬発力の低下
タイプ2繊維が少ないため、特に速い動作や強い力を必要とする動作(階段を上る、走る、重いものを持つなど)が困難になります。子どもたちの筋力低下や、動作の遅さの原因となっていると考えらえます。
呼吸や嚥下機能への影響
タイプ2繊維の不足は、呼吸や嚥下に関連する筋肉の機能低下につながる恐れもあります。
長男(というか、ネマリンミオパチーの子どもたち)の日常生活の中での困りごとが筋生検の結果からも説明がつくことが分かります。
筋力の弱い子あるある、「だらけてる」「やる気がない」と誤解されがちな部分も、本人のメンタルどうこうの話ではなくて、筋肉の細胞レベルに理由が示されているわけなんですね。
だからこそ、こうした結果も、子どものサポート体制を整えるときなんかに、どんどん共有していくといいんじゃないかなと思っています。
筋生検を受ける意義
筋緊張が低い、運動発達が遅いなど、神経筋疾患の疑いが持たれるお子さんに筋生検を受けさせるかどうか。迷ってしまう親御さんも多いことだと思います。
確かに筋生検は多少の侵襲を伴いますが、幼少期に確定診断をつける意義は非常に大きく、適切な治療や、その後の子どもの生活をサポートするための手助けになると思っています。
特に、神経筋疾患は早期発見がとても大事。
筋生検を受ける意義をいくつか挙げてみますね。
1.正確な診断の確定
筋疾患の種類が明確に診断できる
2. 治療方針の決定に貢献
リハビリテーションや呼吸のサポートなどの必要性の有無が分かる
治療薬の選択や、新しい治療法(遺伝子治療など)の適用可能性が分かる
3. 予後の予測
筋生検により、将来の病気の進展具合をある程度予測することができる
今後の生活設計やサポートプランを早期に立てることができる
4. 家族や遺伝カウンセリングの材料
先天性ミオパチーは遺伝性疾患であるため、家族のことも予測できる
5. 適切なサポート体制の確立
医療的、教育的なサポート体制を早期から構築できる
6. 新たな治療法や研究への道
筋生検の結果が医学的データとして蓄積されることで、新たな治療法の研究や臨床試験への参加機会が得られる(ことがあるかも)
まとめ
今回は、わが家の長男の筋生検の結果をもとに、ネマリンミオパチーの筋病理についても少し触れてみました。
もしかすると、子どもに筋生検を受けることに対して不安や恐さを感じる方も親御さんもいらっしゃることでしょう。私自身も、小さいとはいえ侵襲的な検査を子どもに受けさせることには、不安もあり、心も痛みました。
でも、筋生検によって得られる情報と正確な診断は、長い目で見れば子どもの未来にとって大きな意味を持つのだと考えて、検査に踏み切りました。
筋生検は、子どもの状態をより深く理解するための手がかりであり、将来の治療法やサポート体制を整えるための重要なステップではないでしょうか。
検査によって得られる結果が、将来の治療の選択肢や、より良い生活環境のための道しるべとなることがあります。
大切な子どもに検査を受けさせることの不安や恐れを感じるのは自然なことです。
「痛い思いをさせるのは、検査とはいえかわいそう」
「もし本当に病気が分かってしまったらどうしよう」
そんな気持ちも、決して一人で抱え込まなくて大丈夫ですよ。
医療スタッフや他の家族、親しい人々などにもその感情を共有することで、心が少し軽くなることもあります。思っている以上にたくさんの人があなたを支えたいと思っています。
みんなで一緒に、子どもたちの未来をもっと明るいものにしていきましょう♪